世界ウナギシンポジウム宮崎大会

オランダにおけるウナギの資源保全と研究

Guido van den Thillart(グイード・ティレルト) 国籍:オランダ 性別:男

オランダはヨーロッパ最大の河川ライン川の三角州に位置する湿地である。何世代にもわたって人々はウナギを漁獲し,売買してきた。16世紀にはオランダが海洋を支配しており,この間オランダ人のみが日本との貿易を許されていた。来年は日本・オランダ貿易400周年が祝賀される。

ウナギは,過去も現在もオランダの内水面漁業者にとって最も重要な魚である。過去には,小規模であれ,漁業者と農業者の間で水位の管理をめぐる争いがあった。現在のオランダ経済において,漁業は貿易や海運と比較して重要性を失っているが,ウナギ漁業に依存している村や会社は数多く,オランダ文化にとってウナギは未だ重要な役割を担っている。ウナギ資源は80年代より減少している。長い道のりの末,ヨーロッパウナギは急速に絶滅しつつあるとする見解が一般的になった。最近EU委員会によって,ウナギ保護のための調査が行われた。本講義においては,オランダのウナギ資源保全計画について紹介する。

オランダにおいては,ウナギ養殖に関する研究はほとんど行われていない。ワーヘニンゲン養殖大学(the Agricultural University of Wageningen)では,水の再循環と汚染管理を意識した養殖方法の開発に主眼がおかれている。ライデン大学(the University of Leiden)において我々は,長距離回遊がウナギの生理にもたらす影響について研究を開始した。ウナギは高速で泳ぐ魚ではないが,並外れた耐久力を持つ。我々はウナギを6ヶ月間,約6000kmの距離泳がせ続けることができた。この実験によって,ウナギがサケ科魚類の約5分の1の非常に少ないエネルギーで泳ぐことが示された。また,遊泳が性成熟を引き起こす重要なきっかけであることが発見された。しかしながら,ライデン大学の実験では完全な性成熟には至らなかった。

ウナギの人口種苗生産に関するもう一つの視点として,頻繁な下垂体抽出物の注射および注射時の取り扱いによる生理的な影響がある。どちらも再生産を阻害することが知られているが,これらの問題は生殖腺刺激ホルモンをゆっくりと分泌する埋め込み式装置によって克服できると考えられる。我々は最近,ホルモン生産細胞をライデン大学で開発した。この細胞を埋め込むと,下垂体と似た再生産を管理する小さな内分泌腺として作用する。一週間おきに行われるホルモン注射の代わりに,この新しい生物工学的方法がウナギ再生産を改善することを期待している。

Guido van den Thillart(グイード・ティレルト)プロフィール

ヨーロッパのウナギ研究を統括するオランダ・ライデン大学教授。主に銀ウナギの回遊、生理、行動を研究する。

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